2026年度国公立医学科の入試変更点
12年ぶりの新学習指導要領に基づく大学入学共通テスト2.0が1月に実施された。これまでの歴史を遡ると入試改革初年度は混乱を避けるため、お手柔らかな出題で2年目以降から本格的な入試変更が行われてきた。22年度共通テストの難化を前例として本年度入試の難化に備えると共に、目まぐるしく変わる国公立大学医学科の現時点での入試変更点を取り上げていきたい。
◎募集人数の変更
★旭川医:後期定員の廃止
北海道の国公立医学科唯一の後期8名を廃止して、前期定員が8名増員(計48名)される。今回の3大学の後期廃止で全国50国公立医学科で後期日程が残るのはわずか13校。また来年度から2次試験に理科が追加され、理科のない2次英数型の医学科は秋田医・弘前医・徳島医・島根医の4校のみとなる。
★山形医:後期定員の廃止
東日本では最大級の定員だった後期15名を廃止して、前期・一般枠推薦(現役対象)・地域枠推薦が5名ずつ増員される。県内高校の現役卒対象だった地域枠推薦は1浪までに拡大して県内生の確保を優先した模様。
★千葉医:地域枠推薦を新設
これまで前期一般枠にしかなかった地域枠を推薦入試に新設して2名募集(募集要項には「今後増員の可能性もあり」と注記)。その分、前期一般選抜での地域枠は5名から3名に減員。千葉医の推薦開始により国公立医学科で推薦募集が無いのは九州大のみとなる。
★京府医大:推薦全国一般枠の新設
これまで京都府の高校出身者対象の地域枠推薦しかなかった京府医が全国から受験できる一般枠を5名以内新設する(1浪まで)。その分前期一般枠が減員される。
★広島医:前期定員を2名減員
前期定員を90名から88名へ減員(合格確率2%減)、総合型選抜(MD-PhDコース、科学オリンピックの予選通過者などを対象)を5名から7名へ増員。
★佐賀医:後期定員、長崎医療枠の廃止
3年前まで10名あった後期4名を廃止、地域枠推薦(長崎医療枠)1名の廃止。
★長崎医:前期定員を10名減員
長崎医は前期定員を76名から66名へ減員(合格確率13%減)して学校推薦型A(長崎医療枠)を10名増やす。志願倍率Upで九州私立御三家の青雲中高が合格者数を10名以上減らした影響か?大学側の裁量が効く面接点を60点から150点へ上げてまで県内生を確保したい長崎大の危機感が見られる。 地域枠推薦A・B(定員29名)は44名へ増員、1校当たりの推薦人数も12名から「上限無し」出願資格も2浪までに拡大され圧倒的に地元高校有利となった。五島列島や対馬などの離島で地域医療を支える医師家庭の子弟が寮生活する青雲高は長医合格者数を20名台に戻すだろう。
★鹿児島医:後期定員を2名減員
21名と多めに採っていた後期定員を2名減員して19名に、若干名だった国際バカロレア(IB)枠を2名の恒久定員とする。IBが大好きな岡山大に続き鹿児島大も力を入れるようだ。
◎入試制度の変更
★北海道医:25年度は配点ゼロだった共テ情報Iに15点配点。但し共テ配点の5%弱(15点/315点)なので大した影響はない。これで2年間は情報Iを配点しないとする国立医学科は徳島医・香川医の2校のみとなる。
★信州医:2次試験で数学Bの出題範囲に新課程の統計的推測を追加。昨年度慶応大医学科入試で統計分野(正規分布や確率漸化式)の出題があり受験者の意表を突いたが、医療分野で統計処理は必須なので今後は他の医学科も統計の追加を検討するかもしれない。
★奈良県立医:後期募集での第一段階選抜基準の厳格化
奈良県立医大は後期しかない山梨医に次ぐ53名の後期定員を募集するが、14倍の足切り基準が12倍まで引き締められ、後期復活を目指して受験できる人が100名以上減る。
★岡山医:英語検定試験みなし満点の変更
岡山大は2024年度から英語検定試験C1取得者の共テ英語+2次英語みなし満点を導入した。医学科では1600点中英語500点(31%)が満点となり、24年度は全国から定員の半数弱のC1取得者が集まり約2割の16名が合格した。通常なら受けてこない都立国際、芦屋国際中教、立命館宇治などの帰国生が多い高校が合格者を出し、岡大側も有利過ぎるのがわかったのか?わずか2年でギブアップし、共テ英語のみみなし満点へと規模を縮小した。今年の高3生に英検1級で岡大英語500点を狙って当塾初のC1レベルを取得してもらったが、共テ英語100点のみ満点に変更され無念だ。わずか2年で入試制度を撤回とは明らかな失策であり、多くの受験生の人生を振り回した迷走に対して岡山大の入試委員には強く反省を促したい。
★島根医:一般選抜の配点変更
共テ国語重視配点で文系科目に強い受験生が全国から集っていた島根医が理科重視配点に変更、2次比率(面接点も再受験生排除の目的か?倍増)も上げてお隣の鳥取医とよく似た配点となった。理科は課されないが数学・英語の医学科専用問題の難易度が高いので、2次逆転される人が増えるかもしれない。
共テ:2次=730:460(共テ比率61%)→共テ:2次=930:720(共テ比率56%)
★熊本医:共テ数学配点を倍増
全国でも珍しく共テ数学の配点が低かった熊本医が共テ数学配点を50点から100点に倍増させる。22年度入試で難化した数学の平均点が暴落した際、熊本医に志願者が殺到したが、他の大学と同様に尖がった配点を標準化するようだ。
国公立医学科入試の近年のトレンドをまとめると後期日程の廃止を含む一般入試枠の縮小、地域枠を中心とする推薦枠の拡大に尽きる。今年は国立4校で30名近くの後期定員が減り、且つ50名以上を後期で採る奈良県立医大が足切りを厳しくするので、国公立医学科入試は従来以上に前期一発勝負となる。中四国だけみても20年度に広島医・鳥取医 、21年度に香川医・愛媛医が相次いで後期を廃止して県外生が受験できる後期は山口医の全国枠7名のみとなった。年を追うごとに医学科に合格するのは難しくなっている。
大学入学共通テストの導入、学習指導要領改訂による受験科目の組み換えなど入試改革は進行中であり、まさに医学部入試は情報戦だと実感する。2年前予告が通常の配点変更を国語重視で知られていた島根医が半年前に予告してきたのは驚きだ。共テ理科の配点を全体の21%まで増やし、中四国で2番目に高かった共テ比率も56%まで下げた。島根医志望者の一部は共テ国語配点が高い滋賀医大に流れそうだ。理系最上位層がしのぎを削る医学科入試では最新のムーブにいかに乗れるかが合否を分ける。昨年度の国公立医学科入試では共通テスト旧課程の経過措置の恩恵が浪人の合格者を増やし、ギリ落ちした人たちが死に物狂いで復活を目指してくる。先取り学習していない公立高の現役生にとって今年も厳しい戦いとなりそうだ。変化に強い塾だと自負しているが、得意のデータ分析で側面支援をしながら受験人生を賭けた勝負をする塾生に最後まで併走していきたい。